お役立ちコラム

坪谷邦生氏と「自己理解・相互理解を深める」第三回
「アカデミックと実践の架け橋となる」
60年変わらない、適性検査開発・研究の基本姿勢

2023年08月02日
  • 人事アセスメントのナレッジ
  • SPI3の特徴

坪谷邦生氏と自己理解・相互理解を深める・連載第三回として、株式会社リクルートマネジメントソリューションズにおけるテスト事業の創業時代頃、メンバーの一員であり、『人事アセスメントハンドブック(金子書房)』、『人事アセスメント入門(日経文庫)』などの著者である二村英幸氏にインタビューを行いました。インタビュアーは坪谷邦生氏です。

「専門的な知識が必要であったテストを人事パーソンが
使えるようにしたい」という創業からの想い

坪谷邦生氏(以下、坪谷):
「適性検査SPI」を生み出したリクルートのテスト事業は求人広告事業創業に続く二番目の事業だと理解しています。テスト事業は、何をきっかけにどのように始まったのでしょうか?

二村英幸氏(以下、二村):
リクルートが「企業への招待」(求人広告媒体)をお客様である企業人事のご提供する際に、付帯サービスとしてテストをご提供するようになったことが始まりです。
当時は、学歴などの属性で採否を決めるような慣行がありましたが、自社で定着・活躍する基礎的な能力やポテンシャルがあるか、どういった個性を持った人材なのかに着目するニーズが高まり、支援ツールとして開発・ご提供を始めました。
人物をより総合的に把握する選考ツールご要望にお応えするものでした。

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坪谷:
開発者として、大切にされてきたことについて、お聞かせください。 

二村:
テスト事業は今年で創業60周年なりますが、「専門的な知識が必要なテストを人事パーソンが扱えるようにしたい」、「学界と実践の橋渡し機能を担いたい」という想いは創業当初から大切にしてきたことなのではないかと思います。
人事場面における重要な意思決定を支援するツールとなるので、確かな科学的な裏付けを明らかに示しておきたい、人事部門が使いやすい実践的なテストを提供したい、その2点にこだわり、どちらも満たすように努めてきました。
そのために、研究・開発を社外の研究組織に委託することなく、研究者を社内で育成してきました。開発を担当する研究者がユーザーとの接点を大切にしながら技術を蓄えて開発やサービス提供すべきと考えたためです。私自身もこの文脈で育ててもらいましたし、育ててきました。
研究者が開発者を兼ねることが良いサービスにつながると考えて、研究開発組織においては関連書籍の出版や学界での活動を重視してきており、この考えは現在も継承されていると思います。 

坪谷:
『人事アセスメント入門(日経文庫)』の中でも、変化の激しい時代だからこそ、科学的知見と経験的英断の両刀を使う専門的英知が必要、とお伝えいただいてい点と重なるお話ですね。
学会には、どのようなテーマを発表されているのでしょうか?

二村:
産業・組織心理学会、経営行動科学学会、日本テスト学会、人材育成学会などの国内外の学会19の学会において、論文を投稿したり大会に参加したりしています。2000年以降だけでも約200件の発表をしています。
https://www.recruit-ms.co.jp/research/thesis/
最近では、渡辺かおり、飯塚彩(2022)「新卒採用場面におけるコミュニケーションが内定先理解と就業レディネスに与える影響」(人材育成研究、第181号)がありますね。 

 

「当たっている!」実際の人物を言い表したコメントを作る努力

坪谷:
専門家のツールであった適性テストを、人事パーソンでも扱えるようにしたい、という想いは、リクルートテストの中でどのように反映されているのでしょうか

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二村:
テストの得点・スコアやプロフィールを読み取るスキルや経験がないでも理解いただけるように、人物特徴を言語化したコメントを搭載している点は、その想いから開発を進めたものと言ってよいかと思います。
コメントは開発に非常に手間がかかりますしとても難しいのですが、一般の方にはスコアだけではハードルが高いと考えて、こだわって開発していました。それはSPI2・SPI3の開発にも受け継がれていると思います。 

坪谷:
難しい、とおっしゃっていただきましたが、具体的にはどのように開発をしていくのですか?

二村:
コメントの価値は、端的に言えば「当たるか当たらないか」ですよね。実際の人物の特徴を言い表せるかどうか、に尽きるわけです。
もちろん性格特徴についての理論的な背景・研究をベースにした上で、臨床的なアプローチでコメントを開発していきます。具体的には、実際にいる方のテスト結果を読み込んでパーソナリティ理論に基づいて原稿を書き、ご本人や周囲からの意見・フィードバックをもとに精度を確かめていく、社員のテスト結果を確認しながら繰り返し見直します。そんな地道な作業を重ねながら開発していきます。

坪谷:
そういった努力が、「当たる」という感覚につながっていくわけですね。

二村:
より立体的に人物特徴を把握いただく上では、スコアを読み取っていただき、コメントを補足材料にする状態が理想形ではありますので、人事の方にスコアやプロフィールの読み取り方をお伝えする、ということは昔から営業担当が努力をしていたように思います。

適性検査を用いた自己理解・相互理解はシンプルに「面白い」

坪谷:
最近のご著書を拝見していて、研究テーマを人事アセスメント領域から、個人のキャリア開発に軸足を移されたように感じました。
『個と組織を生かす キャリア発達の心理学(金子書房)』では、「自分自身については、分かっているようでわかっていない側面があったり、誤った認識をしている場合もある。ここにアセスメントによって、自己理解を支援するニーズがある」と述べていらっしゃいま
個人が自己理解に適性テストを活用する、という取り組みは以前からあったのでしょうか?

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二村:
リクルート社内では色々な形であったように記憶しています。
性格タイプを社員全員が社内報に記載しており、上司も部下もお互いの個性を大切にしながら関わっていました。また、性格テストのコメント記述を名刺の裏に書いたり、性格が近い人たちでチームを作って運動会を行ったり、というようなこともありました。
例えば何かでメンバーが失敗をした際に、メンバー自身が自分の性格テストの結果を引き合いに出して「私のこの特徴が出ましたね」というような言い訳めいたやりとりもあったくらいです 

坪谷:
なぜそこまで性格をオープンに開示したり、活用したりしていたのでしょうか?

二村:
シンプルに言えば「面白いから」ではないでしょうか。
自分の性格が分かることの面白さもありますし、相手の性格が分かると関心が高まり、話も膨らみやすい。人間関係にもプラスと思います。そういった意味で、積極的に開示し活用していたのだと思います。 

坪谷:
リクルート以外の、顧客企業でも同じように個人の自己理解、相互理解ツールとして活用されているケースはありましたか?

二村:
当時は、あまり多はなかったですね。
あくまでも採用選考のツールとして導入いただくケースが多ったためです。ただ、適性テストはそこに留まらない可能性があるはずで、自己理解・相互理解を促すサービスとして進化させていくのが良いと思います。


「個と組織を生かす」ための適性検査の活用

坪谷:
相互理解におけるテスト結果の活用、とはどのようなイメージをお持ちですか? 

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二村:
日常のマネジメントの中で活用されていく、ということです。
リモート環境においては人間関係も希薄化しやすいですし、相手のことを理解するハードルが高い。そこでお互いの性格特徴の情報が手元にあれば、関係性を円滑にできると思います。
過去、自己理解・相互理解で活用いただけるような適性テストのサービスを開発したこともありましたが、当時はそこまでのニーズがなく廃盤になりました。しかし、今のビジネス環境を踏まえると、マネジメント場面でのテスト活用の有効性は高まっていると感じます。 

坪谷:
個人の自己理解におけるテスト結果の活用についてはいかがでしょうか?

二村:
大いに可能性があると思います。
私は後に大学教員に籍を移しましたが授業の度に様々なテストを受検してもらいその場で結果を自己分析し、学生の間で共有しあうというプログラムを試みました。自分のことが分かる、お互いを理解できる、自己開示ができることでお互いの関係性が深まる、と良い反応でした。
テスト結果があることで、自分について客観視することができる、友人と会話しやすくなる、いわば相互カウンセリングツールのような機能を果たしていたと捉えています。

坪谷:
教育研修ツールとしての活用可能性ですね。

二村:
はい、プログラム展開次第でしょうが十分に機能すると思います。
さらに言えば、採用場面においても、面接者と応募者のコミュニケーションを深めるツールとして活用していくことができれば、選考の有効性められように思いますが、いかがでしょう
例えば、テスト結果を面接場面で共有し、本人の感想や認知を聞きだすことで、面接者はご本人の性格を深く理解するきっかけになるでしょうし、応募者の自己理解を促機会にもなるかと思います。そのような形で、より個人にとって活きるデータとして活用されていくことが、イメージできます

坪谷:
採用場面においても、入社後についても、個人がご自身を理解するデータとして活用される可能性がある、ということですね。
『人事アセスメントの科学(産能大学出版部)』でも「一人ひとりが自らの存在価値を意識し、社会にそれを問い、有能感、貢献感を得ることが個人の職業生活にとって重要なことであるし、そうした環境を提供できる組織には個人の力が十二分に発揮されている強さがある」と書いておられます
個と組織を生かす、そのためにテストが活用されていく。そんな取り組みを増やしていきたい、と感じながらお伺いしておりました。本日はありがとうございました。

二村:
ありがとうございました。

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次回は、この創業からの想いを受け継いだ現在のリクルートマネジメントソリューションズ「測定技術研究所」のメンバーにインタビューし、60年間に渡り日本の企業のデータを保有しているSPIが、どのようにその技術を磨き続けているのかをお届けします。

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