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坪谷邦生氏と「自己理解・相互理解を深める」第四回
品質向上のあくなき追求
適性検査SPI3の開発に込められた想い・こだわり
坪谷邦生氏と自己理解・相互理解を深める・連載第四回は、適性検査SPI3の品質を維持するためにはどんな想い・こだわりが背景にあるのか、がテーマです。
第一回から三回までで、適性検査は自己理解・相互理解において活用できる、ということをお伝えしてきました。本人へのフィードバック・職場内のコミュニケーションで活用する適性検査は、結果が信頼できる・納得感が高いことが重要となります。
適性検査SPI3の品質・精度の高さはどのように維持されているのか、について株式会社リクルートマネジメントソリューションズで適性検査SPI3の開発を担当している、仁田光彦・内藤淳にインタビューを行いました。インタビュアーは坪谷邦生氏です。
専門の研究開発組織が60年磨いてきた、問題作成技術
坪谷邦生氏(以下、坪谷):
今日は適性検査SPI3を開発している測定技術研究所のお二人にインタビューをさせていただきます。最初に、これまでの経歴と入社された際のきっかけを教えてください。
仁田光彦(以下、仁田):
私は、2009年にリクルートマネジメントソリューションズに新卒で入社しました。もともと大学では心理学を勉強していたのですが、リクルートマネジメントソリューションズの「個と組織を生かす」というスローガンに惹かれて入社を決めました。
入社時には個人・組織の双方の観点からそれぞれが大切にしていることや思っていることに向き合い、すり合わせていこうという考え方に共感したことを覚えています。
最初は営業職の配属となり、その後測定技術研究所に異動しました。測定技術研究所ではSPI3を始めとした人事アセスメントの開発・品質管理を担当し、現在は開発マネジャー・研究所所長を担っています。
内藤淳(以下、内藤):
私は平成元年に、リクルートに入社しています。大学で社会心理学を学んでいたこともあり、リクルートマネジメントソリューションズに興味を持ち、自ら手を上げて転籍しました。
そこから30年間、SPIシリーズの開発を担当しており、最近ではSPI3 for Employeesの開発に携わりました。また、現在はHR Analytics & Technology Labという部署で人事関連データの分析やオンボーディング領域のサーベイ開発・開発などを行っています。
適性検査SPI3の開発プロセス
坪谷:
適性検査SPI3をどのように開発されているのか、何がSPIならではの特徴なのか、改めて知りたいと思っています。開発を担っている測定技術研究所とはどのような組織なのでしょうか?
仁田:
ミッションとしては、アセスメントに関する品質管理・開発・営業支援・研究業務を担っています。品質管理では、データ分析により得点状況をモニタリング・調整の検討や、新たな問題作成を行っています。
また、新しいアセスメントツール開発に加えて、営業支援業務としてお客様のデータを分析するようなことも行っています。さらに、アセスメントの測定やHR領域に関わる研究活動(論文作成・学会報告)にも取り組んでいます。
坪谷:
新たな問題を作成されているのですね。素人質問で恐縮ですが問題は、一度作ったらずっと使い続けられるものではないのでしょうか?
仁田:
私たちは、能力の項目は一定期間経つと劣化する、と捉えています。
たくさんの人の目に触れる、ということもあれば、その時代に合った設問/内容でなくなってしまうということもあります。
蓄積しているデータを確認し、精度が落ちている項目があれば、取り下げていきます。そういった改善を続けるためには、持続的に問題を作り続けることが必要になっていくのです。
坪谷:
「能力」を測定する問題はどういうプロセスで出来上がるのでしょうか?
仁田:
問題の原案は問題作成の専任スタッフに作成いただいています。各スタッフによって作成された問題は一度集約し、月に1回丸1日かけて、問題の良し悪しや改善点を検討する場を設けています。検討の場には問題作成スタッフと弊社社員が集まりディスカッションを行います。
問題にも質の良し悪しがあり、例えば、微妙な言葉のニュアンスで、人によって設問自体の理解に違いが出てしまうような問題は特長が安定しない、質の悪い問題となります。また、選択肢も問題の質に影響を与えます。明確な正答とどうみても不正解という選択肢が並んだ問題は質が悪くなってしまいます。
毎月100-200問くらいの問題を生産し、1つひとつの問題について文意が伝わりやすいか、測りたい領域を測定できるかの議論を尽くし、いい問題だけをピックアップしていく、のが第1段階です。この丁寧に設問を確認していく開発方法は、創業時から同じやり方を取っている、と聴いています。
坪谷:
そんなに時間をかけているのですね......。60年の積み重ねが今のSPIの問題を作り上げていると感じました。ここまででもかなり手間がかかっていますが、プロセスにはまだ続きがあるのでしょうか。
仁田:
はい、次のステップ2として、データ収集を行い、再度ふるいにかけていきます。
悪い問題があると測定の邪魔になり誤差が多くなってしまうため、研ぎ澄ませるように問題を選んでいます。それでようやく問題として完成、ということとなります。
坪谷:
能力を測定する問題は、どれだけの数があるのでしょうか?
仁田:
さまざまなテストを提供しておりますが、現役の問題で約1万設問はあります。
過去も含めると、これまでで数万単位の問題を開発してきた、ということになると思います。
性格面の測定におけるこだわり
坪谷:
能力面の問題開発について、かなりの労力と時間をかけ続けていることがよくわかりました。
私はSPIを自己理解・相互理解場面で活用することに着目しています。その意味では性格面の測定が非常に重要になってきますが、性格面についてのこだわりも教えていただけますか?
内藤:
性格面の測定においては、測定精度を維持向上させることと合わせて、時代に合った測定領域になっているかを見直し、適宜追加していくことも重要になります。
個人のパーソナリティを総合的に理解するという目的で生まれたSPIですが、SPI2開発の際には、職務に対する適応性を把握する機能の拡充に加え、結果の読み取りに不慣れな人事担当者であっても「読めば重要なポイントは理解できる」ようにコメントを大幅に拡充させました。
また、SPI3の開発では、職務に対してだけでなく組織風土に対する適応という観点からもパーソナリティを把握できるようにフレームを拡充しています。
さらに、個々人が自己理解を深めキャリアについて考えることや、上司・メンバー間での相互理解の重要性が増している昨今のビジネス環境を踏まえ、従業員のモチベーション・リソースや仕事観を測定することができるSPI3 for employeesを新たに開発しています。
時代に合わせて、性格、能力、志向・仕事観のそれぞれをさまざまな観点で進化させてきましたし、今後も磨き続けていきたいと思っています。
坪谷:
SPI2の開発で「読めば重要なポイントは理解できる」という形にコメントを拡充されたのは、なぜですか?
内藤:
性格を表現するコメントについては、精度の高さ・読みやすさにこだわり、相当な時間をかけて開発をしています。
ベテランの人事の方でないと読み取れない、ということではなく、精度の高いコメントを開発することでより使いやすい報告書の実現を目指しました。SPI2では約1000種類をコメント開発しましたが、2年間でのべ3000時間以上の工数をかけていると思います。
SPI3では、コメントのバリエーションをさらに増強しました。コメント開発の難しさは、単にコメントの数の多さだけにあるのではなく、報告書全体を見渡した時に相互に矛盾が生じないように全体をバランスよく調整することの大変さにあります。
テストに求められる3つの品質を維持し、公開し続ける姿勢
坪谷:
SPIの品質面での特長がほかにもあれば教えてください。
仁田:
若干マニアックな話になるのですが、テストの品質には「信頼性・妥当性・標準性」という3つの基準があります。
簡単にいうと、「信頼性は得点がぶれないか」「妥当性は測りたいものを測定できているか」「標準性は比較したい集団の中で比較できるか」という指標です。
正しく・測りたいものが測れるか・比較できるか、という点を証明できる指標になりますので、パソコンのスペックではないですが、各指標について開示し続けられるレベルで品質を維持することには事業としてこだわっていると思います。欧米では、開示することが多い指標ですが、日本では珍しいかもしれません。
信頼性や妥当性には問題の質が大きくかかわってきます。これまでお伝えしてきたような問題作成にこだわっているのはそのためです。
また、標準性については、どれだけの受検者がいるか、というデータ量が効いてきます。データがたくさんあれば、毎年のデータをもとに精度を確認し、測定精度を調整する・改善することができます。ご利用いただいているお客様が多く、受検いただいている応募者の方が多いSPIだからこそ、維持できている品質かと思います。
坪谷:
「妥当性」についてはどうですか?
仁田:
過去大規模な妥当性検証調査を何度か行っています。
妥当性検証調査とは、上司の方から評価データを頂いて、SPIデータを掛け合わせて、業界・職種別で見た際の定着・活躍する上での特長について分析する調査となります。
お客様社内で1社のデータを分析する取り組みは創業以来多くのお客様で実施いただいていますが、2017年の調査では83社にご協力いただき、10330名のデータで分析を行いました。ここまでの規模での妥当性検証は、業界内でも珍しいのではないでしょうか。
坪谷:
日本ではそういった指標を公開している検査ばかりではないというお話ですが、なぜSPIはそこまでデータの品質のこだわっているのでしょうか?
仁田:
創業以来、採用選考という企業・個人双方に重要な場面で活用されるアセスメントなので、品質を担保することにこだわってきた、ということがあります。
最近では、採用選考場面に限らず、本人に返却しキャリア自律を促す・配属の参考にするなど、広くHR施策に活かしたいというケースが増えてきています。
人事施策の精度・ご本人の納得感を踏まえても、より一層データの精度・品質にはこだわる必要性がより高まってきているのではないかと思います。
個人にも役立つツールとしてSPIを進化させていきたい
坪谷:
今後開発者として、SPI3をどのように進化させていきたいか、想いや展望がありましたら教えてください。
仁田:
アセスメントにはもっとさまざまな使い道があると思っておりまして、広く一般の人の手に届くようにしていきたい、役に立つものにしていきたい、という想いがあります。
坪谷:
もともとリクルートのテスト事業は、「専門家のみが活用していたテストを、人事パーソンが活用できるようにしたい、武器にしていただけるようにしたい」という願いを原点にスタートした、と二村さんにお伺いしました(第三回)。それに近しい想いなのですね。
仁田:
テスト事業の創業という観点では、そういった想いが原点ですよね。
個人と組織の関係性が変わってきているなかで、人事の方に留まらず、最終的には学生・社員といった個人の方に役立てられるようなところまで行きたい、という想いがあります。
坪谷:
創業者である大沢武志さんの著書『心理学的経営』においても、職務適応・職場適応の先に、自己適応がある、という話があって、とても重要な点だと私は捉えています。
そういった事業の「思想」にもつながるところがあるように思いますが、いかがでしょうか?
内藤:
創業者の大沢さんが1980年代に著書『採用と人事測定』の中で、「自己適応」という概念に行きついている点がすごい、と思います。
当時はまだ就社という感覚が強く、入社したら個人は会社のための働くものだという前提が強い時代でした。最近になって個人と組織、会社の関係性が大きく変わってきており、「自己適応」という概念も自然に受け入れられるようになってきましたが、大沢さんがいかに時代を先取りしていたということがよくわかります。
坪谷:
たしかに。大沢さんの言葉が予言であったかのように、個と組織の関係性において、徐々に個が強くなっており、個人に配慮できない組織は選ばれない時代になってきていると感じます。
お二人の話を聞いて、その思想が脈々と受け継がれ、SPI3は磨かれてきたのだと理解しました。本日はありがとうございました。
第四回を終えて
「自分を知り、相手を知り、生かしあうこと」が個と組織を強くする。
これまで全四回の連載において「自己理解・相互理解」を探求してきました。
第一回では、私自身の経験を交えながら、「自己理解・相互理解」がなぜ必要なのか、そしてその面白くも困難な旅路をうまく進んでいく方法を考えました。そのコツは自分だけで考えるのではなく、自己診断ツールと仲間からのフィードバックを活用することでした。
第二回では、アカツキ社の人事の皆さんに協力いただき、実際に自己診断ツールSPI3を使用して仲間とのフィードバックセッションを行いました。お互いの理解が深まっていくやりとりのなかで、皆さんの表情がどんどん明るくなっていったことが印象的でした。
第三回では、なぜSPI3が精度高く「あたっている!」を生み出せるのかを知るために事業創業メンバーである二村英幸氏に原点の想いを伺いました。アカデミックな確かさと企業人事での活用のしやすさを両立させた稀有なサービスが、どうして出来上がったのかを知ることができました。
そして、第四回となるこの記事においては、創業からの想いを受け継いだ現在のリクルートマネジメントソリューションズ「測定技術研究所」のメンバーにインタビューし、60年間に渡り日本の企業のデータを保有しているSPIが、どのようにその技術を磨き続けているのかをお届けしました。
大切なのは「楽しむ」こと。
自己理解と相互理解は、「やらねばならない」と義務感で取り組むとあまりうまくいかないと私は感じています。
人間は、元来自分を知るのが「面白い」ものです。例えば「占い」は現代でも大人気ですね。「あたってる!」というあの感覚。私自身もそうでしたが、「なんで自分はこうなんだろう」と長年思っていたことに対して解が見出されることは、そして前に進むための道筋が照らされることは、とても感動的で面白いものです。
この連載を通じて、自分を知ること、仲間を知ること、そして人間を知ることを「楽しむ」シーンに多く出会いました。アカツキ人事の皆さんが相互理解のなかで「ああ、たしかにそういうところあるよね」「そうか、そう見えるんだ」「じゃあここは助け合えるね」と深くうなずき笑い合っているシーン、事業創業メンバーの二村さんが困難な適性検査の開発や、リクルートにおける相互理解の推進を進めてきた原動力を「シンプルに言えば"面白いから"ではないでしょうか」と当たり前のように笑顔でおっしゃったシーン、そして現在SPI3を開発している仁田さんと内藤さんが適性検査のこれからの可能性に目を輝かせて「人事の方に留まらず、最終的には学生・社員といった個人の方に役立てられるようなところまで行きたい」と語ってくれたシーン、そしてこの連載を企画しているリクルートマネジメントソリューションズの有本倫子さんが取材の帰り道に「意味意義もあるけれど、結局楽しい・知りたい、があるから続くし頑張れますね」と楽しそうにテスト事業を語っていたシーン。
すべては主観から始まる。
自己理解と相互理解のプロセスは、一人称である「私」の主観からスタートする、あらためてそう持論を強くしました。
記事を読んでいただいた人事・マネジャー・経営者のみなさまには、まずは「あなた」自身がSPI3を受けていただきたいと願っています。結果を見て「あたってる!」という面白さを、「自己理解」の効能を、あなた自身が実感することが起点になると思うのです。逆に、その実感なく理屈だけで打った人事施策は形骸化の道を辿るのではないでしょうか。また、既にお使いの人事のみなさまには、SPI3を中間物とした自己理解・相互理解のセッションをご自身のチームなど信頼できる仲間数名で実施することをおすすめします(第二回のやり方をご参考ください)。自分1人では得られなかった自己理解が、そして仲間との相互理解が喜びとともに生まれるはずです。
この短い連載が、あなたのお役に立ちますように。
どうぞ、自己理解と相互理解の旅路を楽しんでください。