お役立ちコラム

採用活動における効果的な「動機づけ」とは?
~今の時代に重要な採用コミュニケーションの3つのポイント~

2025年02月12日
  • 人事アセスメントのナレッジ

「採用活動を通じて、自社に対する学生の志望度を上げたい」「学生に多くの情報を提供しているが、何が響くのかわからない」。こうした悩みを抱える採用担当者も多いのではないでしょうか。

企業と学生がお互いに「選び、選ばれる」時代の採用活動においては、企業による学生の動機づけ(自社に対する学生の志望度や入社意欲を高めること)の重要性が増しています。

この記事では、学生の効果的な動機づけにつながる採用コミュニケーションのポイントについて、昨今の学生の志向・価値観を踏まえて紹介します。

一方的な「動機づけ」は逆効果?

企業と学生の間にずれが生じてしまうケース


多くの企業が、学生の動機づけのために、自社の魅力を整理し、仕事のやりがいや働きやすさなどを積極的にアピールしていることと思います。学生に自社の魅力や特徴を理解してもらい、より良いマッチングを実現するためにも、学生への情報提供は極めて重要です。
一方で、売り手市場化が進み多くの選択肢を持つ学生にとって、学生の志向を無視した企業からの一方的で画一的な動機づけ(図表1)は逆効果となる可能性があるため、注意が必要です。

【図表1

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学生の声から見るYESNOキーワード


企業からの一方的で画一的なコミュニケーションに対するネガティブな反応は、リクルートマネジメントソリューションズが行った「2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」(※1)の結果からも見られます。図表2は、就職活動において志望度が上がった/下がった企業とのやりとりについての学生の声をキーワードにまとめたものです。
コミュニケーションが一方的であったり、画一的・表面的であったりすることで、学生が「対等な立場で自分を尊重してもらえていない」と感じ、志望度の低下につながっている様子がうかがえます。(具体的な学生の声は図表3のとおり)
【図表2
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【図表3
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※1 「2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」の結果については、以下の記事も併せてご覧ください。
https://www.spi.recruit.co.jp/spi3news/000503.html

 

学生の志向の特徴とその背景

前節で紹介した志望度の上昇/低下は、学生のどのような志向から生じているのでしょうか。昨今の学生の志向の特徴とその背景にある環境や経験を整理します。

安定志向・個への意識・失敗への恐れ


昨今の学生はコロナ禍や不安定な世界情勢、AI技術の急速な進展などを経験し、この先の社会がどうなっていくのか予測が難しい中で、VUCAへの不安を抱えています。また、個性や多様性の尊重を当然のものとして育ってきた一方で、叱られたり他者とぶつかったりといった失敗経験が少なくなっていることも特徴です。加えて、ポジティブな情報にもネガティブな情報にもアクセスしやすい環境が、学生の不安や「周りに後れを取らずにうまくやりたい」という思いを強めていることが考えられます。
こうした環境や経験を背景に、学生の中では「安定志向」「個への意識」「失敗への恐れ」といった志向が強まっていると考えています(図表4)。社会や将来への不安が常態化する中で、できるだけ不安要素を減らし、自分に合う条件を自分で選ぶこと、自分が個人として尊重してもらえることを重視しているのです。
【図表4
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「不確定な要素」を避けたい


こうした学生の志向をよく表している調査結果を一つ紹介します。前出の調査では、約6割の学生が、入社前に勤務地がわからないこと、配属部門・職種を選べないこと、入社後に転勤があることで入社意向が低下すると回答しました。そのうち、「大きく下がる」と回答した割合は前年よりも増加しています(図表5)。
いわゆる「ガチャ」、つまり何が出るかわからないという不確定な要素は、できるだけ避けたい、自分に合った条件を自分で選びたいという心情が強くなっていることがうかがえます。
【図表5

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採用コミュニケーションの3つのポイント

では、学生の志向の特徴を踏まえて、企業はどのようなことに気をつければよいのか、採用コミュニケーションにおける3つのポイントを紹介します。
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①「学生の個を尊重する姿勢」がコミュニケーションの土台に


一つ目のポイントは「学生の個を尊重し、理解しようとする姿勢」です。「自分に向き合ってくれている」「尊重されている」と学生が感じられるような、企業の誠実な姿勢がコミュニケーションの土台となります。
「日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX調査」(※2)の結果からは、「企業が学生にしっかり向き合ってくれている」と感じられると選考参加意欲が上がると答えた学生が7割弱おり、感じられないと下がるという学生が半数以上いることがわかります(図表6)。
前出の図表3(志望度が上がった/下がったやりとり)にあるとおり、対等な立場で学生の話にしっかりと耳を傾けるとともに、学生に対する理解や共感を示したり、学生の印象や評価をフィードバックしたりすることが重要です。
【図表6
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2 「日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX調査」について、詳しくは以下のページをご覧ください。
https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/0433848699/

 

②学生にとっての「衛生要因」を把握する


二つ目は「学生にとっての衛生要因の把握・すり合わせ」です。
「衛生要因」とは、米国の心理学者ハーズバーグが提唱した概念で、仕事において満たされないと不満につながる要因のことをいいます。これに対して、満たされると満足につながる要因のことを「動機づけ要因」と呼んでいます(図表7)。
「不安要素・不確定要素を減らしたい」「自分に合った間違いのない選択をしたい」という志向の強い学生にとって、勤務地や給与、働き方といった要素が「衛生要因」にあたると考えられ、これらの重視度が増していると考えられます。
仕事のやりがいや成長環境など、動機づけ要因ももちろん大切ですが、その前に不安や不満につながる「衛生要因」をまず満たしたいという志向が強まっていると考えられるのです。
【図表7
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衛生要因の把握とすり合わせは、図表8のように進めるとよいでしょう。
まずはそれぞれの学生にとっての衛生要因がどこにあるのかを把握します。さらに、なぜその要素を重視するのか、理由や背景を確認した上で、条件のすり合わせや不安の解消・軽減に向けた情報提供を行います。
仮に「勤務地は実家の近くがいい」という志向があったとして、その理由や背景にある不安は学生によって様々です。学生の希望に応えられないこともあるはずですので、学生個々の不安を把握した上で、会社としての考えや可能なサポートについて誠実な姿勢で説明することが重要です。
【図表8
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③学生の自己決定感・納得感を醸成する


三つ目は、「学生の自己決定感・納得感の醸成」です。そのためのコミュニケーションの流れを図表9に示しています。
衛生要因の把握にもつながりますが、まずは対話を通じて相互理解を深めます。学生の意思決定の基準となる価値観ややりたいことが曖昧な場合もありますので、対話の中でそれらを明確にし、意思決定に必要となる情報を具体的に提供することが重要です。また、学生の選択を尊重する姿勢を示すことも大切です。こうしたコミュニケーションが、「必要な情報を基に、自ら納得して決断できた」という自己決定感や納得感の醸成につながります。
【図表9
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「学生のキャリア選択と入社後の状態に関する意識調査」(※3)では、社員からのフィードバックに関する項目についてあてはまる程度が高い高群とそうでない低群別に学生のキャリア選択への納得感を比較したところ、すべての項目で高群の方が納得感が高くなっています(図表10の項目1517)。
学生に向き合う姿勢や理解していることを伝えるためにも、また、学生の自己理解や企業理解を深め、キャリア選択の納得感を高めるためにも、ぜひ積極的なフィードバックをしていただきたいと思います。
【図表10
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3 「学生のキャリア選択と入社後の状態に関する意識調査」について、詳しくは以下のページをご覧ください。
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000001337/

 

 

採用活動振り返りのすすめ

学生の効果的な動機づけに向けた、採用コミュニケーションのポイントについて紹介してきました。

それぞれの学生が持つ志向や不安を把握した上でコミュニケーションをとることの重要性が増しています。採用コミュニケーションを改善していくためには、採用活動の振り返りとして内定者や入社者へのインタビューなどを行い、自社が学生にどう見られているのかを確認することが有効です。振り返りによって、自社のどんなところに不安を感じやすいのか、どんなところに魅力を感じてもらえたのか、どんな学生に対するどんなコミュニケーションが志望度向上につながったのかを具体的に把握することができます。

この記事で紹介したコミュニケーションのポイントを意識していただきながら、ぜひ振り返りを通じた採用活動の改善につなげていただければと思います。


93_img_16.jpg  執筆
   株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
   HRアセスメントソリューション統括部 研究員
   橋本 浩明
  
  「2025年新卒採用 大学生就職活動調査」の実施・分析および
  面接者・リクルーターを対象とする採用関連トレーニングの開発を担当。